Current topic がん免疫振興財団「全人的医療に関するシンポジウム」から
II.末期癌患者の疼痛対策—モルヒネの投与法と治療指針としての心理テストの応用
水口 公信
1
Tadanobu Mizuguchi
1
1国立がんセンター病院・麻酔科
pp.829-833
発行日 1983年5月10日
Published Date 1983/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218282
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医学のすさまじい進歩は平均寿命の延長と高齢者社会に大きな貢献をもたらしている.わが国においては毎年16万人以上のひとの生命ががんによって失われ,手の施しようのない末期がん患者は不安や苦痛に直面しながら,最後の死を迎えるわけである.今回は全人的医療のなかで痛みをもつ末期がん患者にどのようにして痛みを除くべきか,更に末期がん患者の心理的側面をとりあげてみたい.
Leshan1)は激しい痛みの宇宙について次のようにのべている.「悪夢はひとに恐怖の感情をもたらし,外界の支配を受け,自分の意志によって制御できない.いつ始まり,終わるかを予測できないものである.痛みも同様であり,つらい感情,いつ起こるかわからない,しかも自分では制御できない原始感覚である.激しい痛みは悪夢の世界に住み,覚醒している状態を指す」とのべている.ひとは渇けば水により癒すことができるが,痛みを自分で適切に表現するには叫ぶしか方法はない.トルストイは「イワン・イリッチ」の小説のなかで,がんの痛みに打ちのめされていても,自分の生きる意味をもつときには痛みに耐え,自制し,人間の尊厳を保つことができる.いったん痛みが生きる意味をもたない存在であることに気付くと,そのひとは叫びはじめ,死ぬまで痛みを叫び続けるしかなかったと書いている.
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