今月の主題 肺の炎症性疾患—最近の動向
治療
肺感染症に対する抗生物質最近の進歩
大崎 饒
1
Yutaka OHSAKI
1
1北海道大学医学部・第1内科
pp.381-383
発行日 1980年3月10日
Published Date 1980/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216447
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はじめに
呼吸器感染症に用いられる抗生剤は,年々新しい多種のものが開発されている.有機化学の進歩もさることながら,呼吸器感染症の様相が変遷していることもその大きな要因と考えられる,従来みられていた肺炎球菌,Klebsiella感染症による大葉性肺炎等急性炎症例は減少し,これに対し慢性気道感染症あるいは肺気腫を代表とする慢性閉塞性肺疾患の感染合併による急性増悪をきたすような例が増加してきている.これら慢性気道感染の起炎菌としては,従来の抗生剤に抵抗性のあるH. influenzae,Staphylococcusグループが知られてきた.細菌側の抵抗性獲得の要因のほかに,生体側にも免疫能力の低下している,いわゆるcompromised hostが増加し(免疫能を低下させる疾患に罹患,あるいは免疫抑制剤の投与を受けているもの)今まで正常細菌叢の一種とされていたものが病原性を発揮するようになったり(これには細菌ばかりでなく真菌も含まれる),あるいは新種の感染症legionnaires'diseaseが出現したり,呼吸器感染症のコントロールは複雑となってきている.細菌の薬剤抵抗獲得の機序は近年の生物学,生化学の進歩により解明されてきており,これにうちかつ抗生剤の開発も盛んであるが,抗生剤の汎用による起炎菌の変遷も明らかとなり,細菌-抗生剤-抗生剤抵抗性細菌-新抗生剤という絶え間ない抗争のくり返される危険性もある.
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