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はじめに
主として抗生剤療法が普及してから,"急性伝染病"が減って防疫学上の意義を失うと,こんどは,人体内で病原性がないか,たとえあっても極あて微力なものと考えられていた細菌,真菌,ウイルスなどによる感染が目立ってきて,病院内感染の問題が再び注目されるようになった.ここに目立ってきたというのは,それまで少なかったものが新たに増加したのか,あるいはsubclinicalには存在したが,急性重篤な"伝染病"の蔭にかくれて注意されなかったのか,それらの点が十分明らかでないからである.
1946年Weinsteinは,麻疹肺炎,髄膜炎,腎盂腎炎などの患者に抗生剤療法を行うと,もとの原因菌が消失して,そのかわりにKlebsiellaや耐性ブドウ菌など残ることをみて,superinfectionという概念を打ちだした.また1952年Brisauは病巣で優位を占める菌が抗生剤でたたかれると,他の種類の菌が交代して病状が再び悪化したり,慢性化したりする現象に注目してmicroorganism substituteと呼んだ.たしか1953年だったと思うが,故久保教授はこの概念を早速とり入れて菌交代現象として紹介した.その後の経験によると,菌交代現象はすべての感染に常に起こるわけではなく,当時筆者らの調べた範囲では,赤痢51.3%,結核16.5%,中耳炎7.8%,肺炎・腹膜炎各3.5%,胆嚢炎,気管支炎各2.6%,その他となっていた.また交代菌としては緑膿菌,変形菌,肺炎桿菌・真菌,それに耐性ブドウ球菌が多かったが,oxacillinなど,耐性ブドウ球菌に有効な抗生剤がでた頃から,グラム陰性桿菌が主要な役割を演ずるようになった.これらのグラム陰性桿菌はどちらかといえば毒力の弱いものと考えられていたが,菌血症やエンドトキシンショックを起こすと重篤である.
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