- 有料閲覧
- 文献概要
はじめに
企業体における検診は,国の衛生行政の指導監督下で,企業体自身によって実施されている.労働衛生行政の機構においては,国の行政機関の出先機関である労働基準監督署が直接企業体を指導監督している.しかし,学校保健行政においては,地方自治体の教育委員会が各学校を指導監督しており,地域保健においては,都道府県または政令市が設置する保健所が担当している.このように,労働衛生行政下の企業体検診と学校保健の学校身体検査と,地域保健行政の住民検診とが,異なった行政機関の管轄下にあることによる問題がある.例えば検診の方式が異なるのは問題である.学齢前の乳幼児検診の情報と,学校における児童生徒の検診結果と,さらに就職後の企業体検診によって得られたデータと,退職後の地域における老人検診成績とが,被検者は同一人であるのに,全く異なった機関が別個に保有しているのは,被検者本人の健康管理上は決して便利ではない.本人の予防接種によって獲得した免疫の状態や,慢性疾患あるいは慢性中毒などに関連して既往の健康状態を調査する必要が生じた場合には,直ちに利用することが困難である.また,集団的にみた場合にも,学校身体検査成績はそれが開始された明治の昔から集計されて発表されているのに,職場検診の成績は,企業の自主性をまって報告されたもののみが集計されている.もし,企業体検診の成果が,何処かで一括して保存されているならば,極めて有用なデータとして利用できるにちがいない.つまり,検診の種類によって保管する機関が異なっている従来の機構から脱皮して,データバンクを設置しておくことが望まれるわけである.
また,企業体検診の対象は労働者であるが,使用者もまた健康管理が必要である.それは使用者も成人病などにかかりやすい年齢となっているものが多いからで,いわゆる「マネージャー病」も一種の業務上疾患となりうる危検性があるからである.しかし,使用者の検診は必ずしも労働者の一般検診と同時に同じ場所で受ける必要はない.企業のためには,むしろ別の日時に,別の場所で受診し,その結果は一種の企業秘密としておくことも考えられる.
Copyright © 1973, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.