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I.はじめに
これまで,自殺に関してもつともよく研究調査されてきた部門は,社会学的な研究分野である。社会学的研究では,自殺者の実数にもとづいて各国の自殺率を比較しつつ,自殺手段,年次別,年令別,性別あるいは各種社会現象,環境要因との相関に重点がおかれており,それらの報告は多い。そのdataは一見,非常に明確に自殺者の実態やその趨勢を示し,この点では,大きな社会的貢献をもたらしてはいる。しかし,自殺者を一人一人克明に,その生活環境,既往歴,性格,生活史,現症などの諸点で分析研究してゆくとき,彼らはそれぞれ異つた要因をもち,異つた自殺様式を示していることがわかる。
自殺suicide,Selbstmordとは,文字どおりに解釈すれば,「自らsui, Selbstを殺すcide, Mord」こと,すなわち自己殺人であるが,これを実際に個々の場合について調査すると,容易な問題でないことに気づく。強力な心因動機がはたらいて自らを殺す行為,幻聴の命ずるままに自らを殺す行為,意識もうろう状態の中に衝動的に自らを殺す行為など,それぞれが異つた意味をもつている。自殺の定義については,従来,Durkheim1)や加藤10)など,種々の説があるが,著者は,自らを殺す行為を総括して広義の自殺とし,その中に純粋(真性)自殺と偽似性(仮性)自殺とを区別するのが妥当だと考えている。ここでいう純粋自殺は,広義の心因反応に属するもので正常人の自殺を意味し,偽似性自殺は,精神病の自殺や性格異常者の自殺を意味する。しかし,理論上は,この分類が可能であるとしても,実際上はなかなか困難な問題であり,case study的に個々の症例を検討しても,いずれに属せしめるかに迷うことも多い。
この論文では,広義の自殺をとりあげて,自殺と,精神病との関連性について論じた。
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