病態生理—最近のトピックス
肝性昏睡の代謝異常
小泉 岳夫
1
1阪大第1内科
pp.328-329
発行日 1971年3月10日
Published Date 1971/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203544
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肝性昏睡の発現病態
肝性昏睡は肝臓の機能不全の結果招来され意識障害を主とする脳症状で,通常切迫昏睡(inpendi-ng coma)から昏睡(coma)に至るまでの広義に解釈して用いられている.その原因として肝臓の代謝異常による毒物の体内蓄積が古くからあげられているが,このほか肝臓血流の異常によって,主として腸管で生成された毒物が肝臓を通過せず脳へ直接影響を及ぼすことや,肝臓不能不全に随伴して脳の異常をきたすことなどもあげられている.
また肝臓は脳の代謝に必要な物質を合成しており,肝臓機能の低下によってこのような物質の脳への供給不足が昏睡の一因となる.このような作用を有する物質としてcytidineやuridineなどの核酸系物質が考えられている.さらに肝性昏睡には脳の変化も関与する.すなわち重症肝疾患患者の脳は,正常ではほとんど影響をうけない程度の刺激に対しても強い反応を示す.たとえば,正常では全く影響をうけない少量のモルフィンの投与や電解質異常によっても重症肝疾患患者は脳波の異常を示すので,脳の代謝異常が存在したり肝性昏睡をくり返した症例では,特有な脳の膠細胞の増殖や神経細胞の退行変性など脳の形態学的異常を示したり脳波所見の持続性異常などが存在することも知られている.
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