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ある文学者のガン執念—ガンの原因と予防(その2)
吉岡 修一郎
1
1九州産業大
pp.1338-1341
発行日 1970年8月10日
Published Date 1970/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203308
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4.ガンの原因のすべて
ここで,しばらく森山さんの小説を離れて,より専門的な立場からガンの原因に関する知見・理論をすこし整理しておこう.
まず,ガンは本来,細胞自身の余計な,そして単純きわまる増殖という点に重要な本質があって,その点で,ガン細胞の出現ということは,発生学的に未分化の細胞へと成り下がる逆行現象(脱分化現象)だと言える.細胞内の代謝機制から言っても,ガン細胞は発生学的に全く原始的なものである.すでに十数年前のグリーンステインGreenstein氏の有名な著述や講演などに出ているように,正常組織の細胞は,各器官種別によって細胞内酵素系の差異が大きいのに,ガン細胞だけはどの器官の組織でもほとんど酵素系の相違がなく,しかもそれがすべて,特別単純な体系へと逆行している.その代謝機制の特徴として何より大きいことは,解糖作用という無酸素呼吸でエネルギーを作り出すことだ(ヴァールブルク).そのようにして,とめどもなくタンパク合成を続け,自己増殖を続ける.正常細胞を酸素欠乏状態で培養すれば,その一部がガン性化する,という知見もある.
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