痛み・5
鎮痛剤と薬物嗜癖の問題
清原 迪夫
1
1東大麻酔科
pp.779-781
発行日 1968年6月10日
Published Date 1968/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202271
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恩が仇をなす薬物嗜癖
私たち人類は,先史時代より生活を楽しく,そのなかで不幸や悲歎のできごとは,なるべく少なくするように努力してきている.個人の生活のなかでも,あるものは宗教に涅槃,悦楽の境地を求め,また病めるものは薬物に頼りを求めている.たしかに医学研究は,インスリン,抗生物質,副腎皮質ホルモンのような救命の諸薬をもたらして,はかりしれない恩恵を与えてきた.
一方,鎮痛剤のごときは,短い時聞の視野でみるとき,痛みから解放されたときの歓びはよいとしても,そのときに体験した快感から,意志弱きものをトリコにして嗜癖者にしてしまうおそれがある.阿片,大麻,アルコールは,太古から恐れを除き,痛みをもとる貴重な薬として用いられてきており,なかでもアルコールは最古のものである.阿片や大麻は,その栽培される地方にかぎられてはいた.sympathetic magicとかアニミズムに基礎をおいた原始宗教の性質から,薬として用いられるものも,かの熱情的な,自己陶酔的な状態をつくる宗教的な目的にしばしば用いられ,ただ僧や魔術師,医療者の使用ばかりでなく,その間あらゆる狼籍にさえも用いられのである.
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