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病人の心理—医師・患者関係の背後にあるもの
池田 数好
1
1九大教育学部・精神医学
pp.1405-1407
発行日 1967年10月10日
Published Date 1967/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201939
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病識と生の欲望との矛盾
—臨床医学はそれを解決できない—
すべての病人は,あるときは明らかに,あるときは潜在的に二つのものに苦悩する。第一は症状そのものにたいしてであり,第二は「病気であるという事実」にたいしてである。ときに第一のものを欠くことはあつても(自覚症状をともなわない時期),一般に第二のものが病人の心から消え去ることはない。 いうまでもなく,第二のものが現われるということは,自己の病気を自覚する能力が,われわれにそなわつているからであり,精神の未発達な子供や,特定の精神病者をのぞいて,この能力—病識とよばれているもの—を欠くことはないからである。したがつて,病気というものが人間の心にひきおこす心理的な反応は,まず何よりも,ここから考察されなくてはならない。病識をうむ人間のこのような能力は,同時に,人間の生存が有限であるということを,的確に認知する能力でもある。ところが一方では,すべての人間の心のなかには,この能力にもまして普遍的に,いつまでも生きていたい,死にたくないという生の欲望がうずまいていることも自明である。
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