えでぃとりある
糖尿病,新しい病因論
阿部 正和
1
1慈恵医大内科
pp.345-347
発行日 1964年6月10日
Published Date 1964/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402200306
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インスリンの欠乏から逆調節性糖尿病の概念が生まれるまで
糖尿病の病理発生についての考えかたを歴史的に見てみるとなかなか興味ある問題がある。1921年,BantingとBestによつてインスリンが発見され,糖尿病患者のインスリン療法が開始されると,その症状が驚異的に改善されるという事実から,糖尿病はインスリンの一次的欠乏によつて招来される疾病である,と考えられるにいたつた。インスリンの発見は,1889年von MeringとMinkowskiがイヌの膵臓を剔出して糖尿病を発症せしめて以来の偉大な業績としてノーベル医学生理学賞が授与されたことも当然のことであろう。ともかく,インスリンの発見によつて,糖尿病の治療はもちろんのこと,その病理発生も一応は解決をみたと思われたのも,無理からぬことである。
ところが,その後糖尿病に対するインスリン治療の経験がかさねられると,インスリンのみによつて思うようにコントロールのできない糖尿病のあることもわかつてきた。膵臓を剔出した患者が,1日わずか30単位前後のインスリン投与で,糖尿病状態がよくコントロールされるのに,ある種の糖尿病患者では,この何倍かのインスリンを投与しても,コントロールできないものがあることがわかつてきたのである。ちようどそのころ,アルゼンチンの生理学者Houssayがおもしろい業績を発表した。
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