連載 患者さんは人生の先生・5
真の責任感
出雲 博子
1
1聖路加国際病院内分泌代謝科
pp.953
発行日 2014年5月10日
Published Date 2014/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402107561
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この患者さんは内科医であった。最近、聖路加国際病院で亡くなられたので、多くの方は誰であるかわかるかもしれない。けれども、彼のすばらしい生き方とそこから学んだことをできるだけ多くの医師に伝えたいと思う。
彼は25年位前に日本の医学部を卒業してしばらく働いたのち、米国に渡り、研修を受けて米国の免許を取得し、プライマリケア医として開業していた。しかし、2013年の春頃、クリニックをたたんで妻子とともに帰国し、聖路加国際病院の一般内科医長として、外来を担当しながら研修医の指導にあたっていた。私も米国で臨床研修を受けた経験があったので、そんな大変な苦労をして開業までしたのに、どうして50歳になって帰国したのだろうと思っていた。ある日、食堂で一緒になったので尋ねてみると、ハンサムな顔が穏やかに微笑んで「もう、十分やったので」と答えた。「病院勤務ならまだしも、日本人でありながらプライマリケアで開業って大変だったでしょう?」と私が尋ねると、「はい、大変でした。最初はジャップドクターなんかに診てもらいたくないと、ちっとも患者が来ませんでした」と答えた。「それでも、よく何年も頑張ったわねえ」と私。「はい、じーっとがんばっているうちに、だんだん患者さんが増えてきて、帰国する少し前には、近所の消防署から『地域で最も嫌がらずに患者さんを受けてくれる医者』として表彰されました」と話してくれた。私は、彼こそ本当の民間外交官だ、こういう一人ひとりの地道な努力が外国人同士の信頼を育み、国と国とのよい関係を築くのだと思った。
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