日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 環境と健康の危機管理・3
海外生活における心の危機管理
鈴木 満
1
1岩手医科大学神経精神科学講座
pp.952-957
発行日 2002年12月15日
Published Date 2002/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902881
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はじめに—環境と心
「環境と心」は精神医学における基本的な問題の1つである.われわれの脳は環境の変化に対して柔軟に適応する可塑性という能力を持っており,自然環境の変化を克服し移動と定着とを繰り返しながら子孫を増やしてきた.しかしながら,交通機関の発達により,一生涯の間に人が移動できる距離は飛躍的に大きくなり,短時間でいきなり大きな環境の変化に曝される機会が著しく増加している.「環境と心」という問題では,そういった生物学的基盤の上で複雑に展開する心理社会学的現象を取り扱う.
生活環境の変化というストレス要因に曝された結果として生ずる心身の徴候がストレス反応である.この反応は個人によって実に多様な形を示す.そしてストレス要因としての負荷がその人の適応力を凌いだ場合に,「心の危機」に陥ることがある.その症状として最もよく見られるのは,不眠,不安,抑うつであり,さらに症状が進めば回避傾向,欠勤,退職願望,希死念慮といった症状が出現する.
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