特集 青少年暴力・2
アメリカにおける青少年暴力に関する—1999年Surgeon General(公衆衛生長官)の報告書から—公衆衛生アプローチの重要性
三砂 ちづる
1
1国立公衆衛生院疫学部
pp.878-883
発行日 2001年12月15日
Published Date 2001/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902631
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アメリカの青少年暴力に関する研究報告を紹介するこの論文を,世界中を震撼させたアメリカへの連続多発テロ事件のあとに書いている.「人間が憎しみや怒りをこれほど徹底した周到さと冷酷さをもって,卑劣で残酷で破壊的な行動に結びつけることができることを目の当たりにして,何をどう考えてよいのか自分の足元が大きく揺らぐのを感じざるを得ません.これから“報復の正義”という名の暴力のために,さらに人命と問題解決への糸口が失われてゆくのを,私たちは座視しなければいけないのでしょうか? 憎しみを生み育てる環境は,貧困や人権抑圧という栄養素を得て拡大しているのですから,テロの脅威を力によって解決することは不可能だと思います.“国際協力とは何か”が本当に問われていると思います」と国際保健医療協力に携わる友人は書いてきた.
これは,わたしたち公衆衛生にかかわるすべてのものにとっても,変わることのないメッセージである.どのように人は生まれるべきか,どのように育てられるべきか,どのように人と関係を持ち,どのように死んでいくのか.短期的な死亡率が低くなり,病気の罹患率が下がればよい,ということだけではなく,どのようにこころの安らかさを得られるような生活を営んでいけるか,という問いに答えることが,直接に個人的暴力,組織的暴力を減らすことであるに違いない.今回取り上げるアメリカの報告書は,そのような問いに誠実に答えようとした,アメリカにおける研究成果の集大成である.
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