特集 今,WHOの歩みから学ぶもの
WHOの活動とその理念
川口 雄次
1
1世界保健機関本部国際部
pp.612-618
発行日 1997年9月15日
Published Date 1997/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901750
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世界の保健医療の現状
1989年の秋,ベルリンの壁が崩れ落ちたとき世界の人々は新しい時代の到来を感じ,この20世紀最後の10年が薔薇色の21世紀への掛け橋の期間になると大きな期待を膨らませた.東西冷戦の終了は,軍拡競争からの解放と世界の平和そして「平和の配当」が人々の生活を向上させ,健康や教育やその他諸々の社会経済開発が可能になるはずであった.しかし,1997年の現在,地域紛争が各地で勃発し,歴史上かつてないほどの難民や避難民が地球上にあふれ,地球環境の悪化とともに,古くからある感染症や新興感染症が増加し,人々の生活の質は低下し,多数の人々が生命と健康の危機にさらされている.世界経済は,一部の地域を除いて停滞し,先進国は経済改革を迫られ,社会福祉,保健医療サービスの改革を実施せざるを得ず,一方,北からの援助疲れが顕著となっている開発途上国は,中進国と多数の最貧国に分極化し,世界は,政治,経済,社会状況のあらゆる分野において将来の予測不可能な時代を経験しつつある.
現在の地球人口は約58億人であり,急激な世界人口の増加は,地球資源の枯渇と環境破壊をもたらし,最も大きな問題は,総人口のうち約46億人が開発途上国地域に住み,毎日10億人にものぼる人々が生存の危機にさらされている,ということである.科学技術,医学技術の発達した現在ですら,開発途上国地域の中でも最貧国と呼ばれる国々の平均寿命はわずか52歳にすぎず,最も低い国の平均寿命は38歳である.
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