疾病対策の構造
特定病因説の科学史(3)
長野 敬
1
1自治医科大学生物学
pp.806-808
発行日 1994年11月15日
Published Date 1994/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901151
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特定の病気は,それ特有の病原微生物によって引き起こされるというのが,特定病因論のスタンダードの形だった.この見方は次第に,他のタイプの疾患にも広がった.たとえば生化学・栄養学では,ビタミン欠乏から生ずる特定の疾患が問題とされた.ホプキンズの初期の実験(前回に触れた)では,幼動物の生育全般が問題にされていて,栄養素のほうはともかく,欠乏の影響のほうでは特定の効果という要素は少ない.しかしビタミン概念の確立とともに,まず概念の枠があって,それに当てはまる結果が強調して観察され,概念をさらに補強するという循環が成立した.ホルモンの作用についても,基礎研究ではセクレチンの分泌機構,臨床では劇的なインシュリンの効果に始まって,個々のホルモン作用の特定性(標的器官の概念)が強調されるようになっていく.
こうした全体の流れは単に医学での傾向でなく,医学がそこから技術を輸入した生物学の全般的な傾向が,投影されたものと見ることができる.分析なくして進歩なし.これは一面の真理であり,分析(解析)の観点に立って生物学の躍進が見られたのが,19世紀から20世紀前半にかけての時代だった.
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