疾病対策の構造
特定病因説の科学史(2)
長野 敬
1
1自治医科大学生物学
pp.716-718
発行日 1994年10月15日
Published Date 1994/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901130
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外側からの力が病気を引き起こすという観念は,解析的医学の時代に始まったものではない.ここに解析的医学といったのは,生命の機構を分析的にとらえる近代生物学の手法が確立して,その姿勢が医学の実地にも影響を及ぼすようになったことを指すつもりで,この語を用いた.
生物学から医学へと影響を及ぼすといっても,流れは,もちろんこの方向だけに向かうものではなかった.むしろ解剖学も生理学も,それら自体が元来は医学として始まったといえるから,当初においては,影響の流れはむしろ逆であった.ヴェサリウス(A. Vesalius,1514-1564)の『人体の構造』(1543)や,ハーヴィ(W. Harvey,1578-1657)の『血液循環』(1628)は,実証的で精密な手法が医学そのものの中で,まず確立したことの証拠文書である.それにもかかわらず,生物学から医学へ,と上にこだわって言ったのは,別個に実在する個々の生物体を超えて,生命の一般法則をさぐるという姿勢がまず明確にされたのがやはり生物学においてであり,19世紀初頭の“Biologie”という造語(ラマルクとトレヴィラヌス,1802)が,この姿勢を表明する旗印だったと思うからである.
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