特集 エビデンスに基づく公衆衛生とヘルスサービスリサーチ—保健医療介護サービスの振り返りと向上のためのデータ利活用
Editorial—今月号の特集について
田宮 菜奈子
1,2
1筑波大学医学医療系
2筑波大学ヘルスサービス開発研究センター
pp.977
発行日 2023年10月15日
Published Date 2023/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210146
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ヘルスサービスリサーチ(以下、HSR)は、欧米諸国では1990年ごろより重要視されてきた、保健医療介護などのサービスの在り方を分析し、その最適化を図る研究分野であるが、わが国ではあまり広がりがみられて来なかった。その理由の一つに、HSRにおいて必須である、空間的・時間的なビッグデータの利活用が、わが国では大きく遅れていたことがある。
しかし、超高齢社会にあり、適切な医療・介護への資源配分が喫緊の課題となっている現在、わが国の医療・介護のDX化が近年急速に進み、推進の追い風になってきた。一方、欧米諸国ではさらにデータの利活用が進められ、近年EU(欧州連合)では、その利活用が「公衆衛生に関する公益」である場合には、個人の同意なしでもデータを活用しうるという方向が明確に打ち出されている。そして、その文脈において、「公衆衛生とは、健康に関する全ての要素を含むべきである。それらは、すなわち、疾病罹患や障害を含む健康状態、健康状態に影響を与える要因、医療のニーズ、医療に割り当てられる資源、医療の提供および医療へのユニバーサルアクセス、医療の支出および財源、そして、死亡の原因である」(EU一般データ保護規則「GDPR」前文より。筆者翻訳)とされており、従来の公衆衛生の定義より広く、サービス提供状況や、アクセス、費用など、HSRの要素を多く含んでいる。今こそ、データ利活用が進み始めたわが国の「公衆衛生」という枠組みの中で、HSRを改めて位置付けることが重要であろうと考える。
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