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はじめに
抗菌薬は医学のみならず獣医学分野でも盛んに利用されており,特に,安価で安全な畜産物の安定的な供給に大きく貢献してきた.しかし,抗菌薬が汎用されることに伴って,薬剤耐性菌が選択・増加したことも事実である.1969年に食用動物由来耐性菌の人の健康への影響を最初に指摘した「畜産および獣医療における抗生物質使用に関する共同委員会」の報告書,いわゆる“Swann Report”が公表されて以来1),食用動物における抗菌薬の使用に関連する耐性菌の出現は,国際的な問題として取り上げられるようになった.その動きは1990年代に入って本格化し,世界保健機関(World Health Organization:WHO),国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization:FAO),国際獣疫事務局(World Organization for Animal Halth:OIE)などの国際機関が食用動物由来耐性菌対策に関する会議をたびたび開催している.
従来,医療および獣医療における耐性菌対策は基本的に,それぞれ独立した対応が図られてきた.ところが,2015年5月にWHO総会において採択されたGlobal action plan on antimicrobial resistance(グローバル行動計画)2)は耐性菌対策の基本的な考えを“One Health approach”とした.その後に開催されたG7サミットでもこれが支持されたことから,ヒト・動物・環境を包含した耐性菌対策は世界的な活動へと進展している.上記の動きに連動して,2016年4月に内閣府から「薬剤耐性(Antimicrobial Resistance;AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」3)(以下,AMR行動計画)が発出され,今後5年間の活動内容が決定した.これにおいてもOne Health approachに基づく戦略的目標が掲げられており,地球規模でのAMR対策の大きなうねりの中で,動物分野も積極的に対応をすることが求められている.
本稿は,わが国の食用動物由来耐性菌に対する対策とともに,食用動物由来耐性菌の現状を紹介する.One Healthの一角を占める動物分野の現状を読者の皆さまに広く認識していただきたいと願っている.
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