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出産時ないし乳幼児期においてB型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)に感染すると,9割以上の症例は持続感染に移行しキャリアとなる.そのうち約9割は若年期にセロコンバージョンを起こして非活動性キャリアとなり,ほとんどの症例で病態は安定化する.しかし,残りの約1割では,ウイルスの活動性が持続して慢性肝炎の状態が続き,年率約2%で肝硬変へ移行し,肝がん,肝不全に進展する1〜3).C型肝炎ウイルス(Hepatitis Virus;HCV)は,感染が一旦成立すると,健康成人への感染であっても,急性の経過で治癒するものは約30%であり,感染例の約70%でHCV感染が持続し,慢性肝炎へと移行する.慢性化した場合,ウイルスの自然排除は年率0.2%とまれであり,HCV感染による炎症の持続により肝線維化が惹起され,肝硬変や肝細胞がんへと進展する4).HBV, HCVに感染していても自覚症状に乏しいことから,感染に気付きにくく,また,感染を認識していても,感染者が治療の必要性を認識しにくい.
本邦におけるB型・C型肝炎ウイルスキャリアは,2011年時点で210〜280万人と推定されており,国内最大級の感染症である5).国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』によると,肝および肝内胆管のがん(以下,肝がん)による死亡数は,2014年時点でわが国の第5位(男性の第4位,女性の第6位)に位置しており,2002年にピークを示し,その後男女ともに減少傾向を示している.一方で,わが国で2006〜2008年にがんと診断された人全体の5年相対生存率は男女計で62.1%(男性59.1%,女性66.0%)であるが,肝がんの5年相対生存率をみると32.6%(男性33.5%,女性30.5%)と不良である.肝がんの95%を占める肝細胞がんの原因の15%はHBV, 65%はHCV感染による6).このように,肝炎ウイルス感染による国民の健康への影響は大きく,日本だけでなく世界的にも肝炎の克服が望まれている.2016年5月に,WHOは,2030年までにウイルス性肝炎を撲滅するとコミットメントを表明した.B型・C型肝炎を2030年までに撲滅するとの目標を設定し,一連の予防・治療対策を通じて,年間の死亡率を65%削減,治療件数を80%増やすとしている7).後述の通り,特に近年におけるB型・C型肝炎に対する抗ウイルス治療薬の進歩は目覚ましい.肝炎に関する正しい知識の普及啓発や肝炎ウイルス検査による肝炎ウイルスキャリアの囲い込み,肝疾患診療連携拠点病院や肝疾患に関する専門医療機関への受診,必要な患者に対する抗ウイルス治療,この受検・受診・受療のサイクルを構築し,B型・C型肝炎ウイルスへの総合的な対策を推進することで,将来の肝がん予防を図ることが重要である.
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