連載 公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から
家族の肖像
牧上 久仁子
1
1南カリフォルニア大学大学院老年学
pp.668-670
発行日 1999年9月15日
Published Date 1999/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902152
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その娘は「家族」という言葉が大嫌いでした.
ある冬の日の朝,こわばった表情の母親が彼女とひとつ下の弟の枕元に来て,「お母さんはこれからこの家を出るのよ.ここに残るか,お母さんと来るか決めなさい」と言いました.彼女と弟が「お母さんと行く」と答えたのはほぼ同時でした,小学5年生と3年生の姉弟はなんの迷いもなくそう決めたのです.母親はそれを聞くと安堵したように2人を抱いて泣き崩れました.娘が気の強い母親の泣き顔を見たのは,それが初めてでした.その日からその家族の力関係はひっくり返りました.
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