特集 地域保健情報のシステム化
感染症検査情報のネットワーク
宮村 紀久子
1
Kikuko MIYAMURA
1
1国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部血清情報管理室
pp.516-521
発行日 1989年8月15日
Published Date 1989/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207988
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■はじめに
1963年,英国の数カ所の検査機関で従来英国にはなかったファージ型腸チフス菌が分離され,疫学調査の結果,これが分離された患者はいずれもスイスの一保養地に関係あることがわかった.現地では英国からの通報をうけて初めて流行の事実に気付いた.この例は,病原体情報が感染症対策に決定的役割をもつことを示した例としてよく引用されるし,同時に,感染症が,現在では国内だけでなく地球的視野の国際的対応を必要とするに至っていることを如実に示す例である.日本でも1966年,腸チフス中央調査委員会が設置され,腸チフス・パラチフス発生に対して,ファージ型別を用いた管理体制が確立された.今では個々の病原体のもつマーカーを指標にした検査は,流行パターンや感染源の追跡のためにルーチン化された基本的戦略である.
つまり,患者の診断・治療に必須の手続きである病原体検査成績が,それだけの意義にとどまらず,これを収集し解析することによって,ヒト社会の中でのその病原体の動きをあぶりだし,その結果として進行している患者発生に適切に対応する科学的基盤を提供することになっている.このように,病原体の検査成績に基づく疫学—病原体疫学—,さらに宿主の免疫検査情報を含めてラボラトリーエピデミオロジーと呼ばれるこの分野が確立するためには,微生物学の進歩および検査法の発達と普及が前提条件であった.
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