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はじめに
臨床検体の薬毒物分析をする際,重要な情報は何かを考えると,中毒患者から得られる臨床情報と,対象となる起因物質に関する中毒情報の2つに分けることができる.検体採取の際収集される患者情報とは,中毒発生日時と状況,その後の症状,処置,搬入時の状況,検体採取時刻と薬毒物摂取後推定経過時間,中毒起因と推定される物質の情報,蘇生室でのスクリーニング検査の実施の有無と結果などであり,直接検査部での分析結果を左右するわけではないが,分析結果を評価し,次の段階の分析の方向性を決断するうえで重要な情報である.しかし,蘇生室の主治医やスタッフが知り得たそれらの情報が,必ずしも,検体とともに情報として検査部まで届くとは限らず,緊急処置の中,診療録にも記録が残らない場合も多々見られる.せっかくの分析結果を診断や治療に活かすために,各施設では中毒患者検体用の依頼書や中毒カルテ(本シリーズ1を参照)を決め,情報の記録保管に努めたり,定期的に救急スタッフと分析担当者とのカンファレンスを行ったりする工夫がなされている.中毒医療の診断,治療にかかわるすべてのスタッフにとって重要な患者情報と分析結果の記録と活用は,施設全体のシステムの課題であり,薬毒物分析担当者としてその必要性を強く提言していく努力が必要である1).
本シリーズでは,特に「1.検体採取から保存まで」2)の項に患者情報の取り扱いについて具体例が詳細に紹介されていることから,本稿では,起因物質に関する中毒情報について限定して解説する.薬毒物分析の担当者として,専門性を磨くために備えておくとよい中毒情報や,分析業務に有用な化学物質に関する情報源やツールを紹介し,さらに分析業務の向上のために活用できる講習会や学会,ネットワーク作りについて解説したい.
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