特集 栄養疫学
栄養疫学のストラテジー
豊川 裕之
1
Hiroyuki TOYOKAWA
1
1東京大学医学部保健学科疫学教室
pp.76-80
発行日 1985年2月15日
Published Date 1985/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206990
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■栄養疫学の社会的要請
栄養問題が,現在,主として二つの理由で強い関心を持たれている.一つは,食糧に端を発するものである.食糧問題は本来生存に係わる重要問題であり,今に始まる重要問題ではないが,近年とくに,グローバルな視点から食糧供給量の不足の到来が予測されるようになり,かつ,将来といわず現に食糧配分の不均衡が著しくなったために,政治,経済,外交・国防およびヒューマニズムの見地からその改善が要請されるようになっているためである.その根底には,ネオ・マルサス主義で代表される資源の枯渇に対する危惧があることはいうまでもない.いずれにせよ,健康を高めることを論ずる前に生存のための栄養問題が解決されることが要請されている.
もう一つの理由は,医療面において治療医学は当然のことであるが,とりわけ保健・予防の必要性が認識されるようになったことである.近年,わが国を含む"先進諸国"では,医療・医薬品の進歩が公衆衛生の整備によって感染性疾患に対する勝利を確実にし,医学も自信を持って対処できるようになったが,成人病で代表される慢性非感染性疾患や先天異常に対しては,いまだに効果的な治療法を作り出せない状態である.そして,これまで最も効果があった医薬品にも新しい特効薬開発を期待することが望みうすくなって,治療よりも予防を優先するようになった.成人病の予防には,日常生活,とりわけ食生活の改善が重視されることとなり,ここに栄養問題に対する関心が強まったのである.
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