特集 自然保護—特に人間生態学的立場から
健康と生態系
鈴木 継美
1
Tsuguyoshi SUZUKI
1
1東京大学人類生態学
pp.528-531
発行日 1980年8月15日
Published Date 1980/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206125
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■生態系の人間化
ある場を特定し,そこでの動物・植物の集合と非生物的部分とが作り出している系を生態系と呼んでいる.この系は太陽エネルギーのみに依存し,それ自体としては閉じた系で,その内部において,生命の維持に必要な諸元素を循環させている1).植物は太陽エネルギーを直接用いる生産者であり,動物は植物に依存して生きる消費者である.動物・植物の集合は生物群集と呼ばれるが,その内部構造は食物連鎖によって組み立てられている.
人間が生態系内部で,生物群集の一つの構成要素として生きているとみなしうる場合がないわけではない.人間の歴史を考えれば,そのようにして生きていた時間が圧倒的に長かったはずである.しかし,その後,太陽エネルギーが食物連鎖の秩序に従って流れていく状態を人間はいろいろに修飾し,改変している.たとえば,植物を燃やして熱エネルギーを取り出したり,動物を輸送に用いて機械的エネルギーを利用したりすることから始まって,近年になると,太陽エネルギー以外のエネルギーを利用するところまで事態を変えた.この経過を生態系の人間化と呼んでいるのだが2)(表1参照),上述の生態系の概念からみれば,人間化された生態系は全く別種の系だと言わざるをえない.この点に関連して自然生態系と人間生態系という用語を用いているアメリカの人類生態学者もある.
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