特集 臨床検査の新しい展開―環境保全への挑戦
Ⅰ.地球環境の現状とその保全
2.地球環境と健康
鈴木 継美
1,2
Tsuguyoshi SUZUKI
1,2
1東京大学
2元:国立環境研究所
pp.1208-1214
発行日 1999年10月30日
Published Date 1999/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904209
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はじめに──恐竜絶滅の教訓から
今から6500万年ほど前に,当時地球上で栄えていた多種類の恐竜が一斉に短い時間の間に姿を消した.この恐竜絶滅の原因については諸説あるが,有力なものとして巨大隕石の落下による地球の気候変化が挙げられる.大量に吹き上げられた土砂・粉塵により地球の平均気温は数度低下したと推定される.それにより恐竜の食物の供給が不足し,結果として個々の恐竜の死亡,そして種の絶滅に繋がったとするのが第一の仮説である.しかし,この仮説には深刻な欠落部分がある(Doe-hler,1998)2).環境温度の低下が代謝速度に影響し,食物不足を招き多くの恐竜が飢餓のために死亡したとしても,それだけでは多数の種が一斉に死に絶えたことの説明にはならないと言うのがそれである.多数の種は身体の大きさ,食性,などが異なっており,また,生息の場所も地球上のいろいろな場所に及んでいる.さらに,同じ時代に多数の種に分化していた鳥類はなぜ全面的な絶滅に至らなかったのかについても飢饉仮説では説明できない.
恐竜絶滅プロセスについての欠落を埋める仮説は気温低下により性分化に変化が起こり性比に極端な偏りが起こったためだとするものである.鳥の親が卵を抱いてふ化させるのと違って,恐竜は現在のは虫類や両棲類がそうであるように卵を自然の環境の中でふ化させていたと想定される.は虫類や両棲類では発育中の卵や幼生の性分化が環境の温度によって決定されているが恐竜でも同じで,環境温度低下が一世代を越えて続けば片方の性しか生じないことになる.種としての再生産能力が結果として失われたというのである.
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