特集 地域保健医療計画への住民参加
地域保健医療計画への住民参加—その本質・限界・方法について
田中 恒男
1
1東京大学保健管理学
pp.84-89
発行日 1977年2月15日
Published Date 1977/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205331
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はじめに
あらゆる公共的事業の計画・実践・評価に関して,住民の位置づけをどのようにするかは,多くの議論のあるところである.WHOを初め,英・米においては,保健・医療にかかわる解決必要性は,その領域における専門家によってのみ認知されるという見解が強いが,一方ラジカル・エコノミクス派のように,住民の主体的連動によってのみ真の解決に導くことができる,とする見解もあり,必ずしも統一的な認識に至っていない.ミュールダールののべるごとく,over committedwelfare(約束されすぎた福祉)によってすべて依存的態度となり,要求のみ表在化せしめる民衆に関しては,Intellectual sanitation(知的浄化)を通じてのみ真の自主的態度は生まれ,常にその領域の専門家がリーダーシップをとる必要がある,という見解は,いわゆる衆愚主義に立つものであるが,わが国の一部専門家の間には,その見解に強い賛意を表する傾向も強い.しかし,矛盾の表在化による要求の発現は,現実として矛盾がそこに存在する限り,一般住民の感性が専門家より(自己体験的に)鋭敏であり,ミュールダールの指摘がすべての場合にあてはまるものでないことを教えてくれる.
こうした住民参加の問題が社会的にとりあげられたのは,少なくともわが国においては,環境汚染による健康破壊が急速に表在化した結果だと見ることができる.
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