特集 公衆衛生学の総合科学的深化
新しい健康科学の体系化をめざして
田中 恒男
1
1東京大学保健管理学教室
pp.88-94
発行日 1973年2月15日
Published Date 1973/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401204614
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第2次世界大戦終了後,わが国の医学教育に加えられた一つの変化として,公衆衛生学教育の強調があった.これは主として,当時の占領軍であった米国医学関係者のつよい勧奨によるものと聞いているが,当時から今日まで,その学問性をめぐって数多くの意見が取り交され,今日でも絶えることがないのである.その原因の一つとして,公衆衛生学がもつ技術性,実践性の強調が,他の医学諸分野が強調する理論性,没価値性などと抵触するところが大であり,それにともなって公衆衛生学というより健康問題自体の動的性格が,固有の枠組みと論理を欠く結果をもたらすと見なされている事実を指摘できる.この事は,今まで公衆衛生学の教育をうけてきた医師・医学生が,病理学や細菌学などと対比して公衆衛生学に関する明白な諒解や関心を有していないことから見ても明らかである.
従来,ドイツ観念論の影響をうけ,科学的実証主義の血脈の中で育まれてきたわが国の医学体系が,ことさらに米国的な,プラグマティックな発想にもとづく技術体系を,外形的に受けとめて同質化しようとしても,そこに多くの困難があることは当然であろう.とくに今日でもみとめられるヨーロッパ的風土の中でみられる技術教育に対する偏見は,わが国の教育界にもうけつがれており,少なくとも理論的枠組みや対象の抽象性が保証された場合にその学問を貴しとする雰囲気は,公衆衛生学そのものの受容すらも危くしていると考えてよい.
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