書評
ストレスと心の健康―新しいうつ病の科学
加藤 忠史
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム
pp.343
発行日 2006年3月15日
Published Date 2006/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100239
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モノアミン仮説一辺倒だったうつ病研究は,この10年間に劇的な変貌を遂げた。そのため,旧来の教科書では説明不足な点が多々生じていたが,かといって良い教科書もない状況であった。そんな中本書は,この10年のうつ病研究の進歩をすべて取り入れ,これらを統合しようとした,大変意欲的な教科書である。
その第一の特徴は,抗うつ薬の作用機序とそれにまつわるモノアミン仮説から説きおこすことをせず,遺伝学,ストレスの影響,養育の問題,視床下部-下垂体-副腎皮質系の変化,と語っていき,かなり後になって初めてモノアミンが登場する点である。うつ病という疾患を語る際に,遺伝的危険因子,環境の危険因子であるストレスや養育の問題などについてまず語り,後になってから薬剤の作用機序について語るというのは,当たり前といえば当たり前であるが,逆にこれまでのうつ病の見方が偏っていたことを示すといってよいかもしれない。もしもそれが,著者の指摘するように,抗うつ薬開発戦略におけるコストベネフィット分析の影響を受けた偏った見方であったとしたら,我々精神医学者の見方も製薬会社の影響を潜在的に受けていたということかもしれない。
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