人籟
松香私志—抄出
長与 専斎
pp.557
発行日 1965年10月15日
Published Date 1965/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203124
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〔6〕
明治九年米国に於て独立百年万国博覧会を設け,同時に万国医学会を開くの挙ありて,我が政府へ通知ありければ,余は同国出張の命を蒙り,三宅秀,岩永省一の人々を伴ひ,六月下旬を以て横浜に到り,陸軍省の視察員野津道貫伯爵,福原実,黒田久孝男爵,石黒忠悪男爵,川崎瑞,福島安正等の一行と同船にて纜を解きぬ。斯くて八月の初に彼の国に着し,先づ費府に赴きて医学会に参列し,博覧会を縦観し,それより紐育波士頓華盛頓智加護等の諸府を巡遊して衛生行政の視察をなせり。
往年大使に随ひて此地に来りたるときには,只見聞するが儘に打任せ,只管欧州の方へと心急歩れて,言はば漫然通過するに過ぎざりけるが,這囘は多少実地の経験を有し,取調の腹案もありて,見聞するに従ひて疑義を生じ,視察の間頗る趣味あるを覚えたりき。
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