人籟
松香私志—抄出
長与 専斎
pp.493
発行日 1965年9月15日
Published Date 1965/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203104
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〔5〕
旧幕府海舶互市の制行はれたる頃彼の国より輸入せる薬品は,和蘭政府の薬庫より我が政府に送りたる条約品にして一般医師の手に入ること難く,偶々手続きを経て之を得るときは趙璧隋珠の如くに珍重し,舶来といへる語は其の品物の精良貴重なることを意味して毫も疑を容るゝことなく亦疑ふべきものにもあらざりしなるべし。されば衛生局は先づ司薬場を設け,薬品を購入せんとするものは何人にても此処に持出だし無費にて検査を受け得ることとなし,尚ほ重要なる薬品若干種を挙げ其の麁悪品を販売するものは相当の罰に処すべき旨を布達し,其の他薬品取締に関する種々の規則を発布し,一方には医学部内に薬学科の教場を開く等,外は麁悪薬品の輸入を制し,内は薬業社会の改良を促すことに力めたりき。当時薬品の取締は只司薬場検査の一方のみにて辛くも弊害の甚しきを制するに過ぎず,それさえも我に薬局方の規定あることなければ一定の標準を欠き,検査の際には各国薬局方の一に応ずる薬品にしあれば総て適用品として許可せざるを得ざるの有様なれば,同一の薬にして大に強弱精粗の度を異にするものあり,需要者の不便一方ならず甚だしきは用薬上危険の恐れなきにもあらざりき。日本楽局方の必要漸く世上に感覚せられ,十三年中始めて内務省に日本薬局方編纂委員を設けられ前年余が「ゲールツ」「トワルス」の二氏(司薬場教師)に托して調査せしめたる草稿のありけるを籍りて原案とし其の審議を始むることとなれり。
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