人籟
松香私志—抄出
長与 専斎
pp.249
発行日 1965年5月15日
Published Date 1965/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203038
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〔2〕
英米視察中医師制度の調査に際し「サニタリー」云々「ヘルス」云々の語は屡々耳聞する所にして,別林に来てよりも「ゲズンドハイツプレーゲ」等の語は幾度となく問答の間に現はれたりしが,初の程は只字義の儘に解し去りて深くも心を留めざりしに漸く調査の歩も進むに従ひ,単に健康保護といへる単純なる意味にあらざることに心付き,次第に疑義を加へ漸く穿鑿するに及びて,此に国民一般の健康保護を担当する特種の行政組織あることを発見しぬ,是れ実に其の本源を医学に資り,理化工学気象統計等の諸科を包容して之を政務的に運用し,人生の危害を除き国家の福祉を完了する所以の仕組にして,流行病伝染病の予防は勿論,貧民の救済,土地の清潔,上下水の引用排除,市街家屋の建築方式より薬品染料飲食物の用捨取締に至るまで,凡そ人間生活の利害に繋れるものは細大となく収拾網羅して一団の行政部をなし,「サニテーツウエーセン」「オッフエントリへ,ヒギエーネ」など称して国家行政の重要機関となれるものなりき。さても医学関係の事業にして斯る大事の目前に横はれるをも心付かず,盧山に入りて盧山を見ず,米英以来半年以上夢幻の如く泛遊しうかうか看過したる事の今更に悔しくも恥かしく歎息の外なかりけり。
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