隨想
公衆衞生問題としての癌
松岡 脩吉
pp.237
発行日 1951年11月15日
Published Date 1951/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200963
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ある疾病が公衆衞生の問題として取りあげられるためにはいくらかの條件がある。比較的多くの壯年また若年人口の健康從つて活動力を害し,しかも生命をおびやかす危險の多いものほど問題となり,豫防措置として組織的な公共活動に頼るのが好都合であるものほど問題となる。癌及びその他の惡性腫瘍がアメリカで特に問題となつているのは,それによる死亡率が全人口の死因別死亡率順位の上で第2位を占めるくらい高いことによつている。わが國でも40才以上の人口では,これがやはり第2位を占めている。しかも癌は,それをそのまゝ放置しておけば,あまり長くない期間内で必ず致命的であるというおそろしい疾患でもある。しかし,現在のわれわれの手段では全く豫防不能であれば,それは一應公衆衞生の問題とならない。一般の癌發生の原因が充分に明らかでない現在,發生を豫防する方法は講じえないけれども發生した癌が進行惡化して死を招かせるのを豫防することはできる。それはつまり早期發見とそれに續く早期手術である。こういう意味で癌も公衆衞生の問題となるわけであるが,この點がひろく徹底しないと問題にはなつてこない。
わが國の癌及びその他の惡性腫瘍による死亡率は,戰前戰後とも人口10萬につき大體70前後であつて,著しい變化はない。死因別死亡率順位では戰前7で續いたのが,戰後6(昭22),5(昭23,24),4(昭25)と上つた。これは他の原因による死亡率が低下したゝめである。
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