論説
癌と公衆衞生
斎藤 潔
pp.2
発行日 1953年6月15日
Published Date 1953/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201214
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近年に至つて,世界の各文化国に於ては伝染病の減少が著しく目立つて来ている。わが国においても,急性伝染病は勿論,結核の如き慢性伝染病も一躍減少傾向をたどつている。公衆衞生における疾病予防の対象は,最近に至るまで専ら伝染病に限られていたのであるが,その理由は,伝染病は予防方法が一応明瞭に判つていた事,及び伝染病がきわめて広般に且激しく流行していたからである。上述のように,伝染病が最近に至つて著しく減少して来たとなると,たとえ早期発見以外に予防方法は判らなくても,伝染病以外の疾患で罹患率死亡率の高いもの,例えば,脳溢血,癌などが,公衆衞生活動の対象として爼上に上つて来る事は,理の当然であろう。最近,厚生省統計調査部の石田氏の発表した数字によると,悪性新生物による死亡は,昭和23年の7月には総死亡の4.9%であつたが,昭和27年7月においては,10.3%と約2倍に増加した。又,悪性新生物による死亡は昭和27年7月からは結核死亡率を上廻り,中枢神経系の血管損傷について,第二位の死因となつた。石田氏は,癌はこの統計の示す著明な増加によつて公衆衞生行政の当面の問題となつたと述べているが,全く同感である。
最近50年間に,世界における各文化国では人口中60才以上の者の占める割合は,いづれも約倍となつた。
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