綜説
農村公衆衞生
高野 六郎
pp.177-184
発行日 1946年12月25日
Published Date 1946/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200072
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1.農村と都市
大きく分けると國民は農村民と都市民の二類となる。その間に嚴密な線を引くことは出來ないが,人間の生活は農村的生活環境と都市的生活環境の何れかを持つことになり,それが大よそ半々位であらう。但し農村が都市に近くなりつつあるのは事實である。
衞生施設は概して都市に於て先づ發達する。日本の都市は衞生施設の點から見ると未だ畳村の域を脱しないやうなのが多いが,それでも密集生活の要求から,捨ておくことの出來ない施設が多少整備されつゝある。例へば上水道,下水道,汚物掃除等である。都市には多くの人口があり,經濟活動が活溌であり,知識の水準も高く,資力もあるから,生活の便利と健康向上のために適當な施設はなし易いわけであるが,社會には爲すべきことが多いから,焦眉の急務でないものは自然後廻しになる。實際の話としては,日本の都市には感服するに足るほどの衞生施設はまだ殆ど見當らない。都市既に然りなのだから,農村に於ける衞生施設は全部が是れからと云つても過言ではあるまい。農村へ行つて生活して見ると,農付の役場で衞生の爲に考へ,農家に於て健康のために考へてることは殆ど無に近いと云ふ状態である。都鄙を通じて梢々徹底してるのは種痘の定期的實施位のものであらう。
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