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衞生教育と學習の心理學的考察—衞生教育の効果を増す參考のために
東 洋
1
1東京大學文學部心理學教室
pp.116-118
発行日 1951年2月15日
Published Date 1951/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200779
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教育は學習させる事を目的とする,と言つても心理學で使う學習という言葉の意味は非常に廣く決して記憶や,所謂練習ばかりには限らない。一般的に「前の經驗の影響によつて後の行動が何等かのいみで,より適應的に變容させられること」を總稱するのが普通である。從つて學習者が學習するつもりでいたかどうかさえも敢えて問わない。學習という言葉を斯く廣義に解すれば,どんな教育學上の立場をとる人でも冐頭の教育の定義に反對はしないであろう。とにかく何かしら行動が變容してくれなければ教育ということは意味をなさないわけである。そこで衞生教育や醫事思想普及というような場合にも學習過程一般に關する心理學的考察が必要となろう。ここではその手はじめに學習の難易を規定する條件を考えてみたい。ともすると,學習は學習能力といつたようなものの一義的函數であつて,それ以上の問題はないと考えられがちである。學習が遲かつたり不完全だつたりするのはその人の學習能力が低いからであり,よく學習するのは學習能力が高いからであつて,それだけの話だと片づけられてしまう。しかし實際はそんな單純なものではない。大體一般的な學習能力などというものがあるかどうか,そんな能力を假定する事が正しいか否かさえ大いに疑問の存するところなのである。以下にはその樣な議論以前におさえておかねばならぬいくつかの事柄だけを論じよう。
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