論説
衞生學の分野
齋藤 潔
pp.126-127
発行日 1946年11月25日
Published Date 1946/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200058
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衞生學は醫學を根幹として,廣く其の他の自然科學及び人文科學を取り入れた綜合科學である。而して醫學の基礎をなす科學には,物理學,化學及び數擧のやうな純粹科學や生物學,微生物學,藥學などがあるが,それの應用である臨牀醫學,更に醫學全般から出發して,而も醫學の應用である衞生學は,統計學,土木學,建築學,獸醫學等の自然科學竝に心理學,社會學等の人文科學が綜合されて出來上つてゐる。本邦め醫學教育に於て衞生學が,所謂基礎醫學の一部の如く取扱はれてゐるために,衞生學が基礎醫學の一部の如く考へられてゐるが誤りであらう。又,衞生學の授業が醫學科の初學年で教へられてゐるやうでもあるが,これも衞生學の本質から觀て適當ではないであらう。最近,生活科學と厚生科學なる言葉が,衞生學の類似語として用ひられてゐるが,衞生學が人の生活を科學的に研究して,人間生活を健全ならしめることを研究する學であるといふ考へ方に進みつゝある證左であつて,考へ方としては衞生學の方法論に關係しての一進歩であると思惟するが,生活科學とか厚生科學が衞生學と同一義であるとは考へられない。かくの如く衞生學が次第に廣義に解釋されると,一方からは衞生學が學としての弱さを示すやうにも思はれる。然しながら衞生學がどこまでも醫學の固い基礎の上に打ち樹てられた學であることを忘れないならば,これの補助學としての諸科學の範圍が如何に廣範に亘らうとも,學としての衞生學はゆるぎなきものである。
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