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夏季における食品衞生の諸問題
遠山 祐三
1
1國立豫防衞生研究所
pp.70-72
発行日 1950年8月15日
Published Date 1950/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200692
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我が國ほど養物の境類に惠まれた國民は少く,日本ほど味覺の國中を超越した國は世界中でも稀である。佛蘭西料理でも中華料理でも或は世界何れの國の料理でも悉く自國固有の料理と變らない樣自分のものにしている。敗戰で住む家にも着る衣服にも不自由をしている現在の日本人が養食を好むことは贅濟の樣にも考へらるけれども,一方榮養を十分に攝取して立派な體躯を作り世界雄飛の基礎を作ることは誠に結構な事柄と思ふ。之れには食物は總べて新鮮で榮養があり且かも衞生的見地から見て安全な食物を攝ららばならぬ事は云ふまでもない。味覺の發達を一國の文化とは必しも一致しないかも知れないが.食物の自然の味と上手に利用する技術を有し料理と藝術と心得富豪でも貴族でも一般市民でも殆區別無く,似たり寄つたりの美味しい料理を賞味している佛蘭西人,百年一日の樣に鹽味と一種類のソースの味しか知らない英國人,凡べての食物をカロリーやヴイタミン及び衞生の科學一本槍で行く米國人等それぞれの國民の持つ特徴は誠に意味深いものがあるが夫れ等の長所をとつて血となし肉とする心掛けは現在の日本人にとつては特に必要であろふ。今年は消化器系の傳染病特に赤痢か非常に多く己に5000人位が罹病し内1000人近とが死亡し明治32年以來50年振りの大流行であると報ぜられている。之の流行には種々の原因があろうけれども國民一般の食品衞生に對する氣持に緩みが生じている爲ではなかろうか。
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