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はじめに
地方自治体は,フードチェーンを構成する食品事業者に対する監視,指導取り締まり,検査などからなる食品衛生に関する「規制行政」の実務を担うとともに,「支援行政」として事業者や地域住民への食品衛生措置の普及,導入支援を進める役割を果たしている.その食品安全・衛生行政には,1996年のO157による集団食中毒事件や,2001年のBSE国内発生など,新たな危害因子の出現により,高度な専門知識が必要とされるようになってきた.また,現場の状況に迅速に対応するうえで地方自治体の役割は極めて大きくなっている.さらに,食品衛生上の問題に対する食品関連事業者,消費者やマスメディアへの情報提供や,これら関係者と行政との間の相互理解,意見交換を進めるリスクコミュニケーションなどの新たな取り組みも,自治体の課題として認識されている1).
地方自治体がこのように食品安全・衛生行政の重要な役割を効果的に果たしていくためには,食品安全・衛生の専門的な訓練を受け,高度な専門知識を持つ専門職集団の存在が不可欠である.筆者らの調査によれば,欧州,豪州などにおいては,整った専門高等教育体系があり,行政組織においても専門職が行政の中心に位置付けられている.
一方,日本の地方自治体の食品安全・衛生行政の組織機構とそこにおける専門職の配置,現任教育訓練がどのような現状にあるのかについては,これまであまり調査が行われていない.そこで,筆者らの研究チームでは,全国の自治体の一斉調査を実施し現状を把握するとともに,職員の専門性向上のための課題を検討することとした(追記参照).
そこで,西日本の複数自治体の食品安全・衛生業務,家畜衛生・植物衛生業務担当部署に対して実施した予備的なインタビュー調査に基づき,アンケート調査票を作成し,2011年末に,47都道府県,19政令指定都市,41中核市,8保健所設置特例市に配布した.回収数は,都道府県31(回収率66.0%),政令指定都市16(同84.2%),中核市37(同90.2%),特例市6(同75.0%)であった.質問項目は,①自治体における食品安全・衛生,家畜衛生,植物衛生の業務にかかわる各課の専門職の定員および配置数,1ポストの平均在籍年数,各課の担当課長の属性(資格または採用職種),②各課の食品衛生監視員,獣医師などの定員,その充足率の過去10年間の変化(自由記述),③食品安全行政にかかわる専門職の確保,資質と能力に関する課題(自由記述),および④専門職の研修制度,とした.
項目①④に関しては,現在執筆中の論文にて詳しく紹介する予定である.ここでは,特に衛生部局に関する回答を中心として,自治体における専門職の採用に関する課題と,研修・現任教育や専門性の維持に関する課題について述べる.さらに,自治体の種類別に直面する課題の特徴を述べたい.
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