特集 基礎から学ぶ環境衛生
新しい「住まいと健康」問題と公衆衛生技術者のアプローチ
鈴木 晃
1
1国立保健医療科学院
pp.443-447
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102128
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「住まいと健康」問題の変遷と公的介入の根拠再考
住居衛生という言葉を使わずに,なぜ「住まいと健康」あるいはHealthy Housingという言葉で今後を展望しようとしているのか.その疑問に答えるためにも,はじめにこの問題の歴史的変遷について簡単に触れておきたい.
この問題が最初に社会問題化したのは19世紀イギリスで,産業革命にともなう都市への労働者人口の集中によって,劣悪な居住環境がもたらされたことは周知のとおりである.廃棄物や下水の適切な処理手段のない居住地に不良住宅が密集して建てられ,換気設備がなく暖房もない部屋や湿った地下室で,複数世帯が生活を共にすることを余儀なくされていた1,2).この時期の,すなわち古典的な「住まいと健康」問題は,不衛生な住宅あるいは過密居住など不衛生な住み方を原因とする感染症の問題としてとらえることができる.チャドウィックが社会防衛として環境衛生の強力な推進を訴え,公衆衛生法の立法化(1848年)を促すなど,近代公衆衛生の出発点となったことも知られている3).少し遅れて,最初の住居法である「トーレンス・アンド・クロス法(職人・労働者住居法)」(1868年)が法制化されており,公衆衛生と住宅問題が不可分に結びついていたことを示唆している.
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