連載 21世紀の主役たち・12【最終回】
ヒマラヤ奥地の少女,ニマ・サンモ(中国国境・ドルポ地方)
関野 吉晴
1
1武蔵野美術大学(文化人類学)
pp.183
発行日 2007年3月15日
Published Date 2007/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100725
- 有料閲覧
- 文献概要
ヒマラヤ奥地,中国国境のドルポ地方に住むニマ・サンモ(8)はよく働く女の子だった.妹のペマ・アンモはサルダンの小学校に行っているし,兄のペマ・ワンジェン(10)はド・タラップの学校に通っている.彼女は家の手伝いをしている.学校側で各家庭1人しか通学を許していないのだ.ニマ・サンモはよく働くがいたずらもひどく,いつも母親に怒鳴られ,尻を叩かれている.私たちのトイレットペーパーを転がしてロールからすべて引きずり出したり,化粧石鹸を石で叩いて変形させてしまったりしていた.
ヤギ,羊の世話,麦の収穫の手伝い,燃料,肥やしのためのヤク糞集めが主な仕事だ.小学校に行っているペマ・アンモも土曜,日曜には休みなので一緒に働く.一度一緒にヤク糞を集めに行った.小さな身体に比べて大きな籠を背負って落ちているヤク糞を籠に放り込んでいく.先に進めば進むほど籠は重くなり休みが多くなる.荷物を置いて2人で遊び始めたりもする.なかなか前に進まない.重いものを背負っているのでお腹も空く.たびたび2人でしゃがみこみ,袋に詰めたツァンパ(主食の麦こがし)を口に放りこむ.帰りには2人とも籠の中8分目ぐらいまで糞がたまった.とうとうペマ・アンモはしゃがみこみ動けないという.姉のニマ・サンモは妹の糞を自分の籠に移し始めた.2人とも1歩1歩が牛よりのろい.そして5,6mごとにペタンと座り込む.またツァンパを口に放りこむ.まっすぐに往復すれば20分くらいですむところを,3時間もかけてひと仕事終えた.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.