連載 21世紀の主役たち・11
モンゴル草原の少女(モンゴル)
関野 吉晴
1
1武蔵野美術大学(文化人類学)
pp.87
発行日 2007年2月15日
Published Date 2007/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100747
- 有料閲覧
- 文献概要
モンゴルで出会った少女プージェー一家との交流は,特に鮮烈に心に刻み込まれた.おばあちゃんスレンさんの心配りと優しさは心に沁みた.かつて豊かだった草原の遊牧生活への郷愁と,現在の遊牧民の苦しい状況と孫たちの将来について,熱く語ってくれた.苦境の中でも,母親エチデメグネグさんの外来者に対する海のような心の広さは変わらなかった.母親として何でも包み込むような暖かさと温もりがあった.
家畜泥棒によって盗まれた大切な馬36頭を探すために,着の身着のままで捜索の旅に出かけた.草原の遊牧民には助け合いのネットワークがあるからこそ,そんなことができたのだ.ゲル(円形のテント型住居)があれば必ず泊めてもらえる.それでも人がいなければ寒空の中,コートを羽織っての野宿だった.「辛くなかったですか」と尋ねる私に,「しょうがないでしょう」とさらりと言ってのけた.困難さを避けるのではなく,うまくつきあっていく姿が印象的だった.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.