連載 赤いコートの女―女性ホームレス物語・7
路上から銭湯へ
宮下 忠子
1
1コミュニティワーカー制度を考える会
pp.246-248
発行日 2005年3月1日
Published Date 2005/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100056
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銭湯にて
2002年1月末,日の光に陰りが見え始めるころ,路上から離れようとしない波さんを訪ねた.相変わらず冬日のモミの木の下の陽だまりに,波さんは行儀よく座っていた.寒そうだった.陰部の辺りが痒いと言う.衛生上の問題も絡んで,寒さを凌ぐために,一緒に銭湯へ行くことにした.
ビル街から少し離れた,一歩足を踏み入れると昔ながらの下町風の街並の中に,銭湯の暖簾がはためいていた.途中,陰毛のシラミ駆除の液状シャンプーを薬局で購入した.銭湯は賑やかだった.近所のおばちゃんたちが大勢来ている.入浴無料の高齢者の人たちのようだった.2人で裸になると,洗い場の右端一番下の蛇口の前に並んで陣取った.すっかり冷え切った波さんの体にかけ湯を何杯もかけた.そして,持参したシャンプーの液を彼女の手のひらに垂らした.波さんはそのシャンプーを陰毛の部分につけ,泡立てた.しばらくそのままにして他の部分をこすりながら待った.それからきれいに洗い流した.これで大丈夫だろう.怠惰になってきた高齢者の人にはよくあることだ.冷え切った体をかけ湯で保ち,何度も洗浄し終わって,やっと湯船に浸かることができた.
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