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連載第2回である本稿では,2つの健康指標(主観的健康感と抑うつ)と,高齢者本人や地域の社会経済的状況との関連性を検討する.個人の社会経済的地位(socioeconomic status: SES)と健康との関連性の研究はこれまで多く行われてきた.しかし,他の年代と比べ,高齢者を対象とした研究は少ない.木村ら1)は,過去10年間の高齢者のSESと全死亡率の縦断的研究をレビューしている.そして,特定された9つの研究(アメリカ,イギリス,フィンランド,中国,日本)から,関連性の結果には国や(同じ国であっても)地域差があることを報告している.Knesebeckら2)も,高齢者のSESと健康の関連性をアメリカとドイツで比較した結果,アメリカよりもドイツのほうが健康の社会経済格差が明確であったと報告している.その理由として,アメリカでは社会経済格差が大きいために,社会経済階層が低い層では,中年期までに不健康な人は亡くなってしまい,健康な人だけが高齢期に達するためではないかと述べている.このように,高齢者のSESと健康の関連性に関してはさまざまな議論があり,日本でも研究の蓄積が必要な状況にある.
また,近年,健康の地域間差の要因としての地域の社会経済的特徴に関する研究が注目されてきている3,4).日本でも,死亡率や自殺率の地域差研究を中心に地域の社会経済状況に着目した研究が散見される5,6)ものの,未解明な点が多い.また,これまでの健康の地域間差の研究は,死亡率などの既存統計を用いたものがほとんどであり,今回の分析で用いた主観的健康感と抑うつの2つの指標を,10を超える自治体で比較した研究は見あたらない.主観的健康感は,多くの縦断研究で死亡の予測力を持つことがほぼ確立している7~9).さらに,うつは介護予防の重点の1つにも挙げられ,自治体レベルでの対策が重視されてきている10).これらのことからも,主観的健康感とうつの地域差の分析は重要と思われる.
以上から,本稿の目的は次の2点である.第一に,地域在住高齢者のSESと主観的健康感・うつとの関連を明らかにする.第二に,住民の健康度の自治体(市町村)間格差が,どの程度存在するのかを検証する.以上の分析を,前号で紹介した大規模(約3.2万人)で市町村比較が可能な一般高齢者調査データ注)を利用して行う.
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