連載 グローバリゼーションと健康・2
グローバリゼーションと人権
神馬 征峰
1
1東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室
pp.141-144
発行日 2005年2月1日
Published Date 2005/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100032
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ソニーとトヨタ
10年前,パレスチナのガザ地区で働いていた頃のことである.ガザ地区からエルサレムにタクシーで行く途中,私はいつものようにイスラエル兵から国籍をチェックされた.当時私は国連パスポート(レセ・パセ)しか携帯していなかった.日本のパスポートはなくても「日本」と言えばたいてい通じていた.ところが,たまたまそのイスラエル兵は日本を知らなかった.英語もあまり通じない.ヘブライ語でベラベラ言われるだけ.まるで国籍不明者扱いだ.困った.
その時である.タクシーに同乗していたパレスチナ人がヘブライ語で弁護してくれた.言葉はわからない.しかし,「ソニー」とか「トヨタ」という単語は聞き取れる.それがやっと通じた.その兵隊さんの頭の中で,自分が持っているであろう電化製品や車と,「日本」との関係が一致したらしい.私は国籍不明者から国籍保有者へと昇格した.
日本は知らなくても,ソニーやトヨタはこうして世界の隅々にまで知られている.これがグローバリゼーションという言葉を聞いて私が抱くイメージの1つである.何かが共通理解のもとに世界の隅々にまで行きわたる,ということである.
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