特集 精神展開剤とは何か? 社会に与えるインパクトとは?
—総論—精神展開剤の数奇な歴史と今後の展望
内田 裕之
1
1慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室
pp.6-10
発行日 2026年1月15日
Published Date 2026/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610290010006
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はじめに
著者は、精神科医療には、解決すべき大きな課題が少なくとも2つあると考えています。1つ目は、従来の薬物療法や心理療法で良くならない患者が一定割合で存在することです。2つ目は、症状がいったん改善しても再発・再燃が少なくないことです。こうした課題は患者の苦痛を長期化させるだけではなく、家族関係、就労・就学、生活機能、そして社会経済にまで広範な影響を及ぼします。
この課題に対する新たな選択肢として、近年「精神展開剤(psychedelics)」が再評価されています。かつては「幻覚剤」と呼ばれ否定的な印象を伴ってきましたが、その特殊な作用に着目し、1960〜70年代に精神薬理領域で使用されていた「精神展開剤」という呼称が再び用いられつつあります*1。
臨床研究は近年加速し、とりわけシロシビンを中心に、1〜2回の投与と適切な心理社会的支援を組み合わせることで、症状が改善し、その効果が一定期間持続し得ることが示されています。エビデンスはまだ蓄積途上のため、適応や安全性の十分な検討、制度面の整備が必要ですが、従来の治療の限界を解決し得る有望な選択肢だと、少なくとも著者は考えています。
本稿では、精神展開剤の数奇な歴史、最新の知見、治療の実際、作用機序の仮説、そして日本で実装するための現実的な段取りを概説します。

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