特集 精神展開剤とは何か? 社会に与えるインパクトとは?
—各論③—精神展開剤との数奇な再会—古来の霊薬として、新しい抗うつ薬として
蛭川 立
1,2
1明治大学情報コミュニケーション学部
2国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
pp.24-31
発行日 2026年1月15日
Published Date 2026/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610290010024
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
参与観察と当事者研究
私は大学では生物学を専攻し、大学院では人類学を専攻しました。おもに1990年代から2000年代にかけて、世界各地で人類学的な現地調査を行いましたが、とりわけ中南米などの先住民族が儀礼的に使用してきた薬草に含まれる、サイケデリクス=精神展開剤の不思議な世界に魅せられました。その後、明治大学の准教授として定職に就き、多忙な業務の中で海外調査に行く余裕もなくなり、気分障害を患いました。いろいろな薬物療法が奏功せず抑うつ状態が遷延化する中で、2020年代になり新しい抗うつ薬として再登場した精神展開剤と、アメリカで数奇な再会を果たしました。
文化人類学の中では参与観察という方法論が一般的でした。精神医学の中では当事者研究という方法論が注目されてきています。両者に共通しているのは、敢えて客観性を犠牲にしてでも、主観的体験をベースに議論を進めるところにあります。敢えて客観性を犠牲にするのは、主観的体験に基づかなければ了解が難しい経験世界があるからです。精神展開剤が引き起こす変性意識状態を評価する神秘的体験質問票(MEQ30)にも「自分の体験を、同じような体験をしたことがない人に伝えるのは難しい」という、言語による質問紙法の限界を超越するかのような質問が含まれているほどです。

Copyright © 2026, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.

