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Key Questions
Q1:認知症の新しい治療薬と診断とは?
Q2:認知症のリハビリテーションとは?
Q3:認知症のリハビリテーションにおいて作業療法士に期待されることは何か?
はじめに
認知症は単一の疾患名ではなく,多彩な原因疾患から成る一連の症候群と考えられる.その多くをアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)が占めており,欧米では認知症について,Alzheimer's disease and related disorders,あるいはAlzheimer's disease and related dementias(AD/ADRD)といった表記もよくみられる.2023年(令和5年),ADの治療薬として抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬レカネマブが,ADによる軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),またはADによる軽度の認知症に対する治療薬として,日本で薬事承認,そして12月に販売開始となった.これまで,ADに対する治療薬には,コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬が使用されていたが,こういった薬剤はADの症状改善を目的としており,ADの分子病態等の疾患に特異的で根本的なメカニズムには直接には作用せず,いわゆる症状改善薬(symptomatic drug)といわれている.他方,抗Aβ抗体薬は,ADの病理学的な機序に作用し,ADの進行に影響を与える可能性,すなわち疾患修飾作用をもつと考えられており,疾患修飾薬(disease-modifying therapy:DMT)といわれている.レカネマブ以前にも,米国ではアデュカヌマブが迅速承認され,治験で主要評価項目は達成できていないものの,高用量投与群では78週でのCDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)スコアの変化量がプラセボと比較して統計的に有意な悪化抑制効果がみられた1)ために,追加検証として第4相試験が行われていたが中止が発表されている.レカネマブは米国,日本のほか,中国,韓国,香港,イスラエル,UAE,英国等でも承認を受けているが,欧州では販売承認を継続審議,オーストラリアでは非承認等,各国で状況は異なっている.2024年(令和6年)には日本で2剤目の抗Aβ抗体薬ドナネマブの販売が開始された.AβタンパクはC末端長の違いにより,凝集能の差などがもたらされ,ADにおけるその長さの違い〔Aβ(40),Aβ(42)等〕がもたらす病理作用の重要性はよく知られるところだが,N末端側についても特にAβ凝集体では構造変化が起きていることが知られている.第1,2アミノ酸が切断され第3残基となるグルタミン酸(E)が,脱水縮合を受け環状構造をもつピログルタミル酸へ変化したAβ(pE3)は,タンパク分解酵素への耐性が増強,脳内半減期も延長し,Aβ凝集性を促進することが明らかになっている.ドナネマブはAβ(pE3)に特異性が高いため,Aβプラークの除去能が高いと考えられている.一方,前述のレカネマブは可溶性のAβ,特にAβが線維形成を行う不溶性となっていく手前のプロトフィブリルへの特異性が高く,この2剤に差をもたらしている(図).
適応はいずれも,ADによるMCIまたは軽度の認知症(これらは総称して早期ADともいわれる)であるが,それぞれ最適使用ガイドラインにおいて,レカネマブでは投与対象となる患者の認知機能評価を「MMSE スコア 22点以上」,「本剤の投与は原則18か月までとするが,18か月以上継続する場合は,以下の有効性及び安全性の評価に係る対応を行うこと」2)とされている一方,ドナネマブでは「認知機能評価 MMSE スコア 20点以上,28点以下」,「投与開始後12か月を目安にアミロイドPET検査を実施し,Aβプラークの除去を評価し,本剤の投与完了の可否を検討すること」3)とされており,後者では投与の終了基準が明確になっていることが特徴である.それぞれの第3相試験における主要評価項目は,レカネマブが18カ月におけるCDR-SBのベースラインからの変化量4),ドナネマブがベースラインから投与後76週までのintegrated Alzheimer's Disease Rating Scale(iADRS)(認知機能評価のためのADAS-Cog13とADL評価のためのADCS-iADLを複合した指標)の変化量となっている5).ADL評価については,レカネマブでも副次評価項目として,Alzheimer's Disease Cooperative StudyActivities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS MCI-ADL)が挙げられており,いずれの薬剤もプラセボに比較して有意な悪化を示していたことから,DMTは認知機能だけではなく,ADLに関する悪化抑制効果も期待できる.

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