糖尿病性筋萎縮症（diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy）

Diabetic Amyotrophy（Diabetic Lumbosacral Radiculoplexus Neuropathy）

はじめに

　2023年度の患者調査によると，本邦で糖尿病（diabetes mellitus：DM）に対し治療を受けている患者数は550万人を超えるとされ，DMの発症予防・早期発見・重症化予防を目的とした取り組みが国を挙げて推進されている．DMは網膜症や腎症など患者の身体的・精神的・社会的な生活の質を低下させるさまざまな合併症を引き起こすが^17），神経障害も最も高頻度な合併症の1つであり，60歳以上の2型糖尿病患者においては約半数に認めるとされる^24）．

　糖尿病に合併する神経障害としては，慢性に進行し，長さ依存性（length-dependent）に左右対称性感覚・運動ニューロパチーを呈する，いわゆる糖尿病性多発ニューロパチー（diabetic polyneuropathy：DPN）が代表的であり，病態としては持続する高血糖に伴う代謝異常が原因となる^9）．一方で，病変が神経軸索長に依存せず，対称性の分布をとらない局所性または多巣性ニューロパチーの病型が存在し，糖尿病性腰仙部神経根・神経叢ニューロパチー（diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy：DLRPN）はその一亜型である（表 1）．このような症例では，腰椎疾患，筋萎縮性側索硬化症（amyotrophic lateral sclerosis：ALS），および炎症性や血管炎性ニューロパチーとの鑑別に難渋することもある．特に，腰椎疾患との鑑別は不要な手術を避けるためにも重要である．本稿では，DLRPNの診断のポイントや診断に役立つ電気生理学的検査所見，治療について概説する．