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椎骨動脈は頸部から脳へ血液を送る重要な動脈でありながら,頸椎横突孔内を走行するため,脳循環の問題だけでなく,頸椎レベルの脊椎脊髄手術において時に問題となります.何らかの原因で閉塞,出血,あるいは動静脈シャントが発生する場合には,病状によっては深刻な状況になる危険が潜んでいます.椎骨動脈の壁にわずかな解離が生じただけでも(椎骨動脈解離),局所の強い痛みの原因となり,病状が悪化すれば脳梗塞やくも膜下出血などの重篤な脳血管合併症を引き起こします.骨傷を伴う頸椎損傷では,椎骨動脈への影響が常に問題となります.頸椎前方および後方手術だけでなく,腫瘍,血管の手術では,術野展開および損傷回避のための術中画像支援などが技術的課題となります.正常解剖のバリエーションが多彩であることも,椎骨動脈の扱いを難しくしている要因の1つだと思います.
今回の特集テーマを「椎骨動脈を極める」としました.椎骨動脈の扱いを難しくしないためには,脳循環の観点から手術解剖を理解すること,脊椎脊髄手術の観点から技術的要点を理解することの両方が必要だろうと思います.「椎骨動脈を極める」ことは,①椎骨動脈の循環・解剖を熟知することに留まらず,②脊椎脊髄疾患における椎骨動脈の扱いを理解すること,さらに③深刻な血管合併症を回避するための技術的要点を理解することであると思います.本特集では,循環・解剖学的基本事項,頸椎外傷,頸椎前方手術,頸椎後方手術,脊髄腫瘍,そして脊髄動静脈奇形の手術について,エキスパートの先生方に解説していただきました.いずれの項目においても,新たな学び,あらためて深く理解すること,強く共感することなど盛りだくさんの内容となっています.椎骨動脈の循環と解剖,さらに代表的な手術における技術的重要点を知識として理解しておくことは,読者の皆さんの日常診療の幅を広げ,椎骨動脈関連の問題に遭遇した際の解決のヒントになるものと確信いたします.ぜひご一読ください.

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