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38歳のときに先輩から無理やり勧められたランニングも2年くらい続けると苦痛ではなくなり,そのうち山を走るトレイルランニングに没頭していた.仕事が終わったら走り,緊急手術の前に走り,休日も家族を顧みず走っていたけれどなんとか離婚されずに今日に至る.どうしたら速く走れるかと読んだ運動生理学の論文は,本業の脊椎外科の論文数より多いかもしれない.その甲斐あってか,50歳の時には,International Trail Running Associationのポイントランキングで50歳以上の日本のトップとなり,『ランニングの処方箋—医者の僕が走る理由』という本まで上梓した.この情熱を脊椎に向けていたら違う未来が開けていたかもしれないけれど,今のところランニングと脊椎という二刀流を続けていこうと思っている.
ランニングに情熱を傾けるメリットをお話ししようと思う.まずランニング好きな有名なドクターと知り合いになれることである.ランニングの世界では足が速いこと,強いことが正義である.どんなに偉い先生とでもランニングの話をする時は対等に話ができ,またとても仲良くなれる.学会の時に一緒に走りながら,貴重な楽しい時間を過ごすのはとても有意義だと思う.またランニングを続けると,自己効力感(self-efficacy)が向上する.聞き慣れない言葉だが,物事を成し遂げるために重要な能力のことであり,全てのスポーツの中でもランナーが最もこの自己効力感が高いことが示されている.我慢強く患者さんを治し,新たな真理を見いだすためにはランニングが有効だと思う.最後に当然のことではあるが健康に対する恩恵は計り知れない.がんの発生率の低下,免疫力の向上,血圧の低下,認知機能の維持,肥満の予防などほぼ全ての健康の指標を改善すると考えられている.身体中のミトコンドリアの機能が向上し,オートファジーが活性化し,老化も予防する.
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